連載:その時“光”の歴史は動いた

【第7回 光速不変の原理】

 例えば、40km/hで進む自動車を、自転車に乗って追いかけるとしましょう。 早く追いかければ追いかけるほど、自転車から見た自動車の見かけの速さは小さくなるはずです。 自転車の速さが15km/sの場合、自動車の見かけの速さは40-15=25km/hとなります。



では、自動車ではなく「光」を追いかけたら、光の見かけの速さも小さくなるのでしょうか。 光の速さで「光」を追いかけたら、光は止まって見えるのでしょうか。 今回はそんな光の謎に挑戦した科学者のお話です。

 さて、“空気”が「音」を伝えるように、19世紀の物理学では“何か”が「光」を伝えていると考えられていました。 宇宙空間を満たすその“何か”をエーテルといい、1887年にマイケルソンとモーリーがその検出をしようとする実験を行いました(マイケルソン・モーリーの実験)。 地球は、エーテル中を自転しながら太陽の周りを公転しています。


そこで、地球上で光速を測定すれば、エーテルの見かけの動きに沿った光は速くなり、エーテルに逆らった光は遅くなると考え、その差を必ず検出できる精度で実験を行ったにもかかわらず、実際にはエーテルの検出に至りませんでした。



エーテルが検出されなかったことを受けて、アインシュタインは1905年に、エーテルの存在を否定し、光は真空中を光源の運動状態によらず一定の速さで伝わる(光速不変の原理)ことなどを示した特殊相対性理論を唱えます。

 光を追いかけた場合を考えてみましょう。 止まっている人から見た光の道筋は、c(光速)×t(時間)で表されます。 一方、光を追いかけている人から見た光の道筋は、(c?v(人の動く速さ))×tと考えたくなりますが、光の速さが一定なので、c×t’(光を追いかけている人の経過時間)と考えました。 t>t’になるので、不思議な話ですが『動いている人の時間はゆっくりと進む』ことがわかります。



「光速不変の原理」からはまた、『ある人にとって同時に見えることが、他の人にとっても同時とは限らない(同時の相対性)』ことや『高速でうごくものは縮んで見える(ローレンツ収縮)』などが説明されます。

 「時間の遅れ」が生じるなんて、にわかに信じがたい人もいるでしょう。 しかし、この相対論的な効果は実生活でも応用されています。 例えば、カーナビが利用しているGPS衛星に搭載された原子時計からの情報は、相対論的な補正を行わないと、位置情報が1日で約11kmもずれてしまうほどの時刻差が生じてしまうのです。 今回は説明を簡単にするために、マイケルソン・モーリーの実験や光速不変の原理について非常に単純化しています。 また、GPS衛星の相対論的な補正も実際は、特殊相対性理論だけではなく、『重力が空間や時間をゆがめている』ことを示した一般相対性理論の効果も含まれています。 詳しくは、参考文献をご覧になると良いでしょう。

なお、記事を書くにあたり、インターネットの上をいろいろと調べてみたのですが、『相対論は間違っている!』というページがよく検索されてしまいます。 相対性理論は一日二日で理解することができる理論ではないでしょう。 しかし、インターネットの情報を鵜呑みにせず、時間をかけて理解しようと努力してみるのもいいことじゃないかと思います。


参考文献:
・『ニュートン』2011年12月号
・Wikipedia「特殊相対性理論」「一般相対性理論」「マイケルソン・モーリーの実験」




(成田: 2016年10月)