連載:その時“光”の歴史は動いた

【第8回 世界初!LED可視光通信】

 今までの連載記事では、文字通り光の歴史についてご紹介してきましたが、今回はこれから飛躍が期待される、超小型衛星の可視光通信についてご紹介します。 信州大学と信州衛星研究会が連携して開発した信州初の超小型衛星「可視光通信実験衛星ShindaiSat(愛称:ぎんれい)」は平成26(2014)年2月28日にNASA主衛星の相乗り副衛星の一つとして種子島宇宙センターからH-2Aロケット23号機で打ち上げられました。 11月24日に大気圏に再突入するまでの約9ヶ月間、数十回にわたる発光ダイオード(LED)点灯実験を行いました。 気象条件の関係で地上とのデータ通信の実証には至りませんでしたが、北海道・宮城県・富山県・岡山県と全国各地で撮影され多くの成果をあげました。 図1は、5月28日午前1時50分に岡山県で撮影されたこうま座の中を移動するぎんれいの様子です。 モールス信号で「GINREI」の“INRE”と発光したことが写真で確認できます。


(図1 2014年5月28日 午前1時50分撮影)

 みなさんは人工衛星をご覧になったことはありますか? 人工衛星の多くは自ら光っているわけではなく、太陽の光が人工衛星に反射して見えています。 当然、昼間も日本の上空を通過していますが、空が明るすぎて見えません。 逆に深夜は太陽光が人工衛星に当たっていないので見えません。 そのため、人工衛星を確認できるのは夕方と明け方の数時間だけです。 しかし、ぎんれいは自らLEDで発光する衛星なので場合によっては深夜でも見ることができます。

 信州大学と信州衛星研究会が連携して衛星を作る最初の動機は、信州に豊富にある森林を宇宙空間から調査・管理することでした。 しかし、観測で得られる画像データの容量は膨大なものになります。 得られたデータをすばやく地上に伝送するには既存の電波通信ではなく、レーザー光のような線状で収束性に優れた新しい通信方式が必要になります。 これまで、人工衛星が地上や他の人工衛星と通信する手段として主に用いられているのは電波です。 しかし、最近では携帯電話やテレビ放送など電波の需要が多く電波帯域が混雑しています。 また、電波を使うためには免許が必要で、申請に時間がかかることが人工衛星開発に時間がかかる要因の一つになっています。 そこで、現状では法規制のない可視光通信に目をつけました。 LED可視光通信は、LEDを高速で点滅させていろいろな情報を遠くに送ることができます。 ぎんれいは世界で初めてのLED可視光通信を用いた実験挑んだ人工衛星です。

 私たちはさまざまな光を目にします。 昼は太陽光が、夜は星からの光が地上に降り注ぎます。 暮らしの中では、電灯や太陽光発電などさまざまな形で光を利用しています。 また、インターネットや携帯電話にも使われており、私たちは光の恩恵を受けて暮らしています。 一方で過剰な光のために、星が見えにくくなったり、農作物に悪影響が出たりという問題もあります。 これからも光の中で生活をしていく私たちにとって、光の使い方は十分に考えなければならないでしょう。


参考文献: ・超小型衛星「ぎんれい」
http://www.shinshu-u.ac.jp/shindaisat/place/
・斉藤秀樹(2015)信州と科学技術のつながり―ShindaiSatを中心に―,博物館だより,第94号,pp.5-7




(斎藤: 2015年11月)