連載:世界で星はこう言い伝えられていた!

【第1回 砂漠の民ベドウィンと北極星】

 人生はよく旅に例えられます。人は人生において、目標があるとそれに向かって 頑張ります。ただ、目標がないとふらふらと毎日を過ごしてしまいがちですよね・ ・・笑。旅も同じように、目標がないとどこに向かえばよいかわからず、迷子にな ってしまいます。しかし旅にはちゃんと不動の目標がいます。それが「北極星」で す。

 北極星は地球の自転軸を北極側に延長した線上近くに位置するため、地球上から 見るとほとんど動きません。そのため古来から、夜間に海の上や砂漠などで方角を 知るために使われていました。つまり北極星がある方向を北とし、その方角を基準 に他の方角を決めていました。

 シリアからアラビア一帯、及びエジプト北部のリビア砂漠にはベドウィン(砂漠 に住む者)という遊牧民達がいました。ベドウィンが最も口にする星の名前は「ア ル・ゲディ」でした。この「アル・ゲディ」は北極星のことで、ベドウィンの老人 達は若者達に「オプトン・アル・ゲディ」(北極星に注意しろ)と、夜を通して砂 漠を旅する時の心得を下記の言葉ののように伝えられてきました。

 北へ進むには、アル・ゲディを馬の行く手に見よ。
 北北東へ進むには、アル・ゲディを汝の左の額に見よ。
 北東へ進むには、アル・ゲディを汝の左の方に見よ。
 東へ進むには、アル・ゲディを鞍の後輪の左に置け。
 南へ進むには、アル・ゲディを鞍の後輪のこぶに置け。
 さらに、南へ下る時の歌の句に、
  スハイルを正面に、アル・ゲディを馬のしりの上に。
                (野尻抱影『星と東西民族』)

ベドウィンは馬を移動手段として使っていたので、馬と乗っている人間の各部位を 目安に使って、北とそれ以外の方角を決めていたようです。このように砂漠に住む 民にとって、北極星はなくてはならない存在だったようですね。

 この言葉の中に登場するスハイルは、カノープスのことで北極星に対して南の空 の低い位置にある目印となる星でした。アル・ゲディと違いスハイルは方角を教え るだけでなく、雨期の到来を教えてくれる重要な星でした。

 携帯電話やスマートフォンが普及してきた現代では、わざわざ北極星を見つけて 方角を確認しようとする人はほとんどいないでしょう。しかし、一度 GPSなどを使 わず星で方角を知ることができるかを試していただけると、ベドウィンがいかに難 しいことをしていたかがわかっていただけると思います。ぜひ一度お試しあれ。


(貴村:大阪教育大学 2014年06月)