連載:世界で星はこう言い伝えられていた!

【第2回 砂漠の民ベドウィンと北極星】

このコーナーでは世界各地の神話や伝説、また星が人の生活にどうか変わってきた かを紹介します。今回はVol.01に引き続き、北極星のお話です。

 前回は、ベドウィンでの北極星のお話をしました。では、私たちが住んでいる日 本においてはどのように見られていたのでしょうか。北極星の和名は北辰、ネノホ シ、ヒトツボシ、キタノホシ、トクゾウボシなどがあります。いろいろある名前の 中でも今回はトクゾウボシという名前に注目してみましょう。トクゾウというのは、 廻船問屋の船頭徳蔵という人のことで、徳蔵はとても腕の立つ船乗りでした。徳蔵 がどこからきたのかは諸説あり、兵庫県や愛媛県だという説が有力です。やはりこ の徳蔵も北極星を使い船を進めていました。日本でも方角を知るために北極星を使 ったことがわかります。

 北極星は一年を通してほぼ真北に位置しています。ほぼ真北ということが大事で、 北極星はよくよく見ると少し動いています。少し動いていることに初めて気づいた のは誰なのでしょうか。実は北極星動いてるのを発見したのは徳蔵の奥さんである という記録が香川県、愛媛県、広島県、山口県、三重県、大阪府、兵庫県とかなり 幅広い地域に残っています。

 徳蔵が海に出ている夜、徳蔵の妻は針仕事をしていました。その時に窓の格子の 間から、北極星が見えていました。時間が経つうちに北極星が障子の桟一本分だけ 動いていることに気がつきました。夫が航海をしている時にこの動いている星を目 印としていることを不安に思いました。妻が徳蔵に北極星が動いていることを伝え ると、徳蔵は驚いて本当かどうか確かめるために港に松の木を植えました。松の木 のてっぺんと北極星の間を見ていると確かに北極星が動いていることがわかり、そ の後の航海はより慎重に船を進めるようになりました。

 北極星が動いていることを知っている人はたくさんいると思います。しかし、そ のことをあえて確認しようとする人は多くはないでしょう。海の上では方角が分か るかどうかは生死に関わってきますので、昔の人は現代の人より注意深く北極星を 見ていたことでしょう。北極星を見る際にはただ方角を教えてくれる星ということ だけでなく、そこに込められた話に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


(貴村:大阪教育大学 2014年08月)