連載:宇宙開発裏話

【第4回 火星探査機、打ち上げラッシュ】

 来月、2年2ヶ月ぶりに火星へのロンチウインドウが開き、米露中の 3つの探査機 が打ち上げられます。 ロンチウインドウとはロケットが打ち上げ可能な時間帯を指し、この秋にまでに打 ち上げないと次は2013年まで待たねばなりません。 3つの探査機をちょっとだけ紹介しましょう。

☆火星ローバー「キュリオシティ」(米)
 火星には今までに、 3台のローバーが送られました。 1台目のソジャーナは米袋、双子のスピリット&オポチュニティはゴルフカートほ どの大きさでしたが、今回のキュリオシティは、なんと軽自動車!と同じ大きさ。 よくミニ・クーパー(Mr. BEANの愛車ですね)に例えられます。
 先輩たちに比べ格段に重くなったキュリオシティは、これまでのようにエアバッ クを使って跳ねて着陸することができません。 スカイクレーンと呼ばれるホバリングロボットが助手として相乗りし、その名のと おりローバーをクレーンで吊るしながら表面に下ろします。
 英語で「好奇心」という意味のキュリオシティには、数多くの観測装置が搭載さ れています。 カメラやロボットアームはもちろん、岩石を削るドリルや表層をはがすレーザーを も備える一丁前の地質学者なのです。 一番の目玉は、試料に含まれるガスや有機物を分析する SAMという装置で、火星に 存在していたかもしれない生命の痕跡を探ります。 電源はプルトニウム 238を熱源とする原子力電池なので、太陽電池に降り積もる砂 で悩まされることはありません。

☆サンプルリターン機「フォボス・グルント」(露)
 ロシアは宇宙開発競争時代、ルナという無人探査機で月からサンプルを持ち帰っ たことがあります。 ソ連崩壊直前には、火星の衛星フォボスに相次いで探査機を送った経験があります。 フォボス・グルントは、これまでに培った技術を生かしてフォボスに着陸、さらに、 はやぶさのようにサンプルを地球に持ち帰る計画です。
 ただし、はやぶさ計画とはいくつか異なる点があります。 この探査機は表層をまるごとすくい取ったり、ハンマーで徐々に圧力を加えたりし て、重力の弱いフォボスからサンプルを集めます。 また、探査機から分離した子機が地球までサンプルを運び、本体はフォボス表面に 留まって観測を続けます。
 サンプルを入れるカプセルには、クマムシ入りの生物実験装置が一緒に搭載され ます。 クマムシは放射線や真空に強い耐久性を持つ微生物で、 3年間の過酷な宇宙旅行に 耐え、無事に生還できるか調べられます。

☆火星周回衛星「蛍火1号」(中)
 フォボス・グルントに相乗りする小型衛星で、火星を回る探査機は現在運用中の ものと合わせると総勢4機にもなります。 主に周辺のプラズマ環境を調べ、火星大気散逸の謎を探ります。


(藤井:大阪教育大学 2011年10月)