連載:宇宙開発裏話

【第5回 人工衛星のお洋服】

 寒い日が続きますね〜。 私はヒートテックの欠かせない毎日を過ごしています。 今回は人工衛星の洋服の話をしましょう。

 熱が伝わる方法には、ホッカイロのように直接触って伝わる「伝導」と、お味噌 汁のように密度差によって浮力が生じる「対流」、よく晴れた朝に起こる放射冷却 や日向ぼっこのように、光を放射して熱が伝わる「輻射(ふくしゃ)」の 3つがあ ります。 宇宙には空気が存在しないので、宇宙空間を漂う人工衛星には最後の「輻射」でし か熱が伝わってきません。

 人工衛星は裸のままだと、太陽光に当たり続けると熱くなり、逆に光が当たらな いと冷え過ぎてしまって、内部の大事な機器が壊れてしまいます。 そのため衛星を、太陽光等を反射し、内部の熱を閉じ込める膜で覆うのです。

 この膜は「サーマルブランケット」と呼ばれ、アポロの月着陸船の断熱材として 初めて開発されました。 人工衛星は金色や白色、黒色など様々な色をしていますが、これらの色は断熱材の 色なのです。

 私たちが人工衛星と聞いてよくイメージする金色の断熱材は、アルミを蒸着した プラスチックフィルムと、さらにダクロンという網状の繊維を何層にも重ね合わせ て作られており、衛星にはマジックテープで張り付けられています。 金色の断熱材は太陽光や地球からの反射光を強く反射できるのですが、電気を通し やすい導電性をあわせ持つので、地球低軌道に存在する原子状酸素で劣化してしま う性質があります。 従って、大電力を使う通信衛星や惑星のプラズマを探る探査機には、帯電対策とし て炭素を練りこんで導電性をなくした黒い断熱材が使われています。 また、宇宙ステーションなど地球大気の影響を受ける宇宙船には、プラスチックの 代わりにベータクロスというガラス繊維にアルミを蒸着した、白い断熱材が使われ ています。 宇宙ステーションに物資を運ぶ日本の「こうのとり」は金色をしていますが、これ は短期間で使い捨てるため、劣化を心配する必要がないからです。

 一方で人工衛星には、内部にたくさんの電力を消費して、大量の熱を発生させて しまう機器を搭載している場合があります。 熱を閉じ込めたままでは、お風呂でのぼせるように人工衛星が熱くなってしまいま す。 対策として、サーマルブランケットと同じように光を反射できるけど、赤外線を放 出して内部の熱も逃がすこともできる、 OSRというラジエターの一種が取り付けら れています。 人工衛星のところどころにある銀色の部分が OSRで、熱環境の厳しい水星探査機に は、ほぼ全面に使われています。


(藤井:大阪教育大学 2011年12月)