連載:宇宙開発裏話

【第7回 打ち上げ迫る!ドラゴン宇宙船】

 春は新しい門出の季節。 実は来月1日、宇宙にも新米宇宙船「ドラゴン」が登場します。 文字通り新しいアメリカの宇宙船でもありますが、なんと一民間企業が作った宇宙 船なのです。 国際宇宙ステーションに向かい、無人で物資輸送を行います。 国に頼らない、宇宙開発新時代の幕開けです。

 今現在、人を運べる宇宙船は、ロシアのソユーズと中国の神舟(しんしゅう)に 限られています。 昨年、老朽化や安全性、運用費などの問題によりスペースシャトルが引退したため です。 NASAは将来に向けて、火星や小惑星まで飛行できる有人宇宙船オリオンを開発する 一方で、これまでシャトルが担ってきた地球低軌道への輸送を民間に委託し、商業 輸送を実現させるためのコンペを開いてきました。 コンペは貨物部門と有人部門に分かれ、貨物部門で見事内定を勝ち取ったのは、ス ペース X社による前述のドラゴンと、 OSC社のシグナスでした。 有人部門は前社2社を含む合計7社の宇宙船がエントリーし、各社が選考に向け凌ぎ を削っている段階です。

 今回いち早く打ち上げられるスペース X社のドラゴンは、富士山のような円錐形 をしたカプセル型宇宙船です。 自律的にドッキングをせず、日本の「こうのとり」のように宇宙ステーションの近 くまで自動ランデブーした後、宇宙飛行士が操作するロボットアームでゆっくりと 捕獲されます。 物資を補給後、地球に再突入して帰還し、将来的には人を載せることも可能です。

 ドラゴンを運ぶのは、同社が開発した中型液体ロケット、ファルコン9です。 このロケットの 1段目には、灯油を燃料とする小さなロケットエンジンが 9基も束 ねられています。 高価で複雑なエンジンを使わず、打ち上げ作業の徹底した簡略化を進めたことで、 ロケット開発史上類を見ない徹底的な低コスト化を達成したのです。 来年には、さらに大型化を図ったファルコンヘビーロケットの打ち上げが予定され ています。 アポロ計画で使われたサターン Vロケットの半分もの能力を持ち、大型の惑星探査 や有人火星探査の実現に一役買うことでしょう。

 スペース X社はもともと電子マネーで有名なPayPalの創設者、イーロン・マスク 氏によって立ち上げられました。 イーロン氏は、電気自動車テスラモーターズ社の CEOや住宅用太陽電池メーカーの 会長を務めており、島にも太陽光発電所を寄贈しています。 宇宙開発から地球環境問題まで、“いーろん”なことに取り組む起業家として知ら れています。


(藤井:大阪教育大学 2012年04月)