連載:宇宙開発裏話

【第8回 見ろよビーナス!ベネラの挑戦】

 皆さん、金星の太陽面通過は見えましたか? 火星に比べると過酷な環境の金星は、生命の存在する可能性が絶望的で話題に上が ることは少ないです。 しかし、地球と大きさも質量も同じで双子のような金星が、なぜ灼熱の星に至った のか詳しいことはわかっていません。 今回は今から30年も前に、摂氏 400度以上・90気圧という壮絶な環境に耐え、地表 から写真を送ることに成功したソ連の金星探査機「ベネラ」シリーズについて紹介 しましょう。

 ベネラは量産効果によってコストを下げ、冗長性も確保することを目的に、金星 へのロンチウインドウが開く度に2機ずつ打ち上げられました。 その中でも優れた成果を出した着陸機がベネラ 9〜14号です。 機器を高圧から守る継ぎ目のないチタン製の球殻に、帽子のようなアンテナをかぶ せ、下からドーナツ状の着陸用バンパーで支える構造をしていました。 球殻にはシャンプーハットに似た円盤が取り付けられ、空気抵抗によるブレーキと して使われました。 金星大気が非常に濃密なので、着陸時にパラシュートは必要なかったのです。

 観測機器の目玉は、何と言ってもカメラでした。 探査機から地面を見下ろす形で 2台取り付けられ、左右に振ることでそれぞれ 180 度の視野を確保していました。 理科便覧などに記載されている金星の地表写真が横に長いのはこのためです。 カメラ窓はガラス製だと溶けてしまうので、厚さ 1cmの水晶で作られ、使う直前ま でキャップで保護されました。 この他にも、ペネトロメータと呼ばれる地表の硬度や伝導率を測定する展開式のア ームや、ドリルで地表を砕いて採取した土の成分を調べる分光器など、ユニークな 分析機器が搭載されました。 私たちは探査機と聞くと、火星ローバーのように少しずつゆっくりと動く姿を想像 するかもしれません。 しかしベネラは30分間だけ動作が約束されていたので、全てが時間との勝負でした。 カメラ撮影やフィルターの取り換え、ドリルによる掘削などが慌ただしく行われ、 その動作は搭載していたマイクロフォンにも記録されています。

 これら着陸機の中で特にベネラ13号は想定を超える2時間もの間信号を送り続け、 脚に積もった砂粒が風に吹かれる様子も捉えています。 ただ、残念なことに14号では想定外の事態が発生してしまいました。 ペネトロメータのアームで測定する場所に、カメラのキャップが偶然落ちてしまっ たのです。 正常に機器は動いたものの、金星まで行って得られたのはキャップのデータだった とか・・・。
ベネラ 9〜14号が撮った画像の一部は、近年の画像処理技術によって鮮明になりま した。Ted Stryk氏によって処理された画像が公開されています。 ( http://www.strykfoto.org/venera.htm)


(藤井:大阪教育大学 2012年06月)