連載:宇宙開発裏話

【第12回 とってもEロケット「イプシロン」】

 今年は世界でたくさんの新型ロケットが登場します。処女飛行の成功率は 7割以 下と言われており、ロケットのデビューは緊張を伴います。 今回はその中でも夏に打ち上げ予定の、日本のイプシロン( E)について紹介しま しょう。

 ロケットには液体推進剤を使う液体式と、固体推進剤を使う固体式の 2種類があ ります。 日本では、両者の特徴をうまく反映してきた結果、H-IIA、M-Vという 2つのロケッ トに差別化され、それぞれ実用衛星、科学衛星を打ち上げるロケットとして使われ てきました。

 とくに M-Vは、糸川英夫博士のペンシルロケット実験に始まった、日本の固体ロ ケットの最終形態でした。 少ない予算でも努力と工夫を積み重ねてきた結果、世界で最も高い性能を有するロ ケットへと進化し、2006年夏まで合計 7基が運用されました。 M-Vは打ち上げごとカスタマイズして作られ、理学(衛星や探査機)と工学(ロケ ット)にそれぞれ携わる研究者が一体となってミッションを作り上げたため、数々 の名機を宇宙に送り届けることができたのです。 ちなみに、はやぶさを打ち上げたのもこのロケットです。

 ただ、ミッションごとロケットを最適化するため費用が高くつき、準備作業にも 大変な手間がかかりました。 そこで後継機として開発されたのがイプシロンです。 イプシロンは、宇宙への敷居を下げることを目標に、多くの改良が施されています。 例えば、最近CMでもよく耳にする「コスパ(※)」の追求が挙げられます。 M-Vでは全てにおいて性能が重視されましたが、イプシロンは性能を左右する上段 ロケットだけ技術力を注ぎ、 1段目は他のロケットでも使われている量産化された 凡庸ロケットを流用することで、コストを抑えています。 上段ロケットについても、推進剤を入れるケースの製造工程や推進剤の種類を改良 し、より高性能を達成しながら価格を抑えています。

 また、発射場のシステムにも革新的な技術が盛り込まれています。 ロケットに人工知能を持たせて自律点検を強化し、ワイヤレス化やモバイル管制を 実現することで、打ち上げに必要な設備や作業をコンパクトにするのです。 打ち上げに要する期間はわずか 7日(世界最短)で、人工衛星を安く・早く・気軽 に運ぶことができます。 アポロやスペースシャトルのような、お祭り騒ぎの打ち上げが見られなくなるのは ちょっとさみしいですが、宇宙がぐっと身近になることでしょう。

(※)コスパはコストパフォーマンスの略称です


(藤井:大阪教育大学 2013年02月)