連載:宇宙開発裏話
【第13回 40年の時を超え、うなりを上げる発掘エンジン「NK-33」】
先日、新しい宇宙ロケット「アンタレス」がデビューしました。
空中発射ロケット「ペガサス」を民間主導で開発した経験を持つ、オービタル・サ
イエンシズ社のロケットです。
スペースシャトル無き今、すでに国際宇宙ステーションへの貨物輸送を始めている
SpaceX社や日本の強力なライバルとして活躍することでしょう。
またアンタレスは、これまで数々の名探査機を打ち上げてきた、退役予定の中型ロ
ケット「デルタII」の後継機にも位置づけられています。
アンタレスの第一段エンジンには、数奇な運命をたどってきた液体ロケットエン
ジン「NK-33」が使われています。
米ソが月レースを繰り広げていた時代、ソ連はアポロ計画に対抗するために超大型
月ロケット「N1」を作りました。
このロケットの第 1段エンジンとして NK-15が開発され、さらに改良型として生み
出されたのが NK-33です。
いまだアメリカや日本でも実用化できない、酸化剤の多い高圧状態で燃焼ができる
ため、ロケットエンジンの重さに比べて大きな推力を出せました。
N1は1969年から72年にかけ、 4度打ち上げが行われましたが、すべて失敗してし
まいます。
ソ連は有人月探査計画を放棄するも、技術者たちは大量に残された NK-33に「核物
質注意」の偽の張り紙をつけ、密かに保管しました。
このエンジンが発掘されたのは、ソ連が崩壊した後の1993年です。
アメリカの航空宇宙メーカーであるエアロジェットは、 100台弱の NK-33とその生
産権利を格安で買い取り、燃焼実験によって驚異的な能力を明らかにします。
実は、日本もこのエンジンに注目していました。
90年代後半、JAXAの前身組織の一つである NASDAは、低コストな技術実証ロケット
を構想していました。
第 2段に新開発の液化天然ガスエンジンを使う一方で、第 1段は NK-33を含めた既
存のロケットを流用する予定でした。
ところが、一足早くアメリカの宇宙ベンチャー企業キスラーに NK-33を押さえられ
てしまい、 NASDAは別のエンジンを調達してGXロケットとして設計を改めます(結
局天然ガスエンジンの開発に失敗し、計画は頓挫しました)。
エンジンを獲得したキスラーは、二段式の完全再使用型ロケット 「K-1」を構想
していました。
しかし、こちらも開発がずるずる遅れ、資金難からNASAの民間宇宙輸送コンペ「COTS」
で負けてしまいます。
勝利をつかんだのは、エンジンを自力開発したSpaceXと今回のオービタル・サイエ
ンシズ社でした。
このように複雑な変遷を経て、NK-33はようやく日の目を見たのです。
40年以上も前に作られたエンジンが、時を超えて第一線の場で使われるって、凄い
話ですよね。
(藤井:平塚市博物館 2013年04月)
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