連載:宇宙開発裏話

【第18回 「アイス」の復活なるか?】

1986年のハレー彗星の回帰にあわせ、各国から探査機が打ち上げられました。 日本の「さきがけ」「すいせい」、ヨーロッパの「ジオット」、ソ連の2 機の「ヴ ェガ」、そしてアメリカの「アイス」が冷戦時代のまっただ中に連携して観測を行 い、世界中が太陽系をさまよう小さな氷の旅人を追いかけたのです。

もともと最初に共同観測を提案したアメリカは、ハレー彗星に大型の探査機を送る 予定でした。 ボイジャーで培った技術を流用した「HIM」や、「HRM」というサンプルリターンミ ッションです。 しかし当時のNASAはシャトルで手一杯で、十分な予算を確保できませんでした。 この状況を救ったのが、「軌道の帝王」と呼ばれるNASAのロバート・ファーカー氏 です。 軌道設計の技術者である彼は、地球磁気圏を探査している「ISEE-3」をわずかなエ ネルギーで彗星へ送る道を見つけました。 ISEE-3は1978年に打ち上げられ、史上初めてラグランジュ点を周回するハロー軌道 に投入されていました。 そこから太陽の重力や月スイングバイを利用し、天井からスパゲッティを落とした ような複雑な軌道を潜り抜け、ハレー彗星へ到達するのです。
途中、りゅう座流星群の母天体であるジャコビニ彗星に寄り道もする、二度おいし い軌道でした。 軌道変更後には新しい「アイス」の名前が付けられ、ハレー艦隊の一員として彗星 のプラズマテイルを観測しました。 1997年にはシャットダウンの信号が送られ、永い眠りにつきました。

2008年、NASAがアイスの動作を確認すると、13の観測機器のうち12個が正常に動作 していることがわかりました。 秒速 150mの速度を変更できる、推進剤も残されたままでした。 かすかな電波はアマチュアにも捉えられ、今年の8月には再び地球に戻ってきます。 噴射と月スイングバイができれば、再びアイスをハロー軌道へ迎え入れることがで きるでしょう。

しかし、アイスとの通信に必要な地上機器は、老朽化のためすでに撤去済みです。 私たち人類は、もはやアイスへ問いかけることすらできません。 肝心のNASAも、新しくシステムを用意する余裕がありません。

そこで立ち上がったのが、最近流行のクラウドファンディングです。 民間とNASAが運用再開のための資金集めをはじめています。 参加企業は、歴史に埋もれたルナ・オービターミッションの探査成果を、クラウド ファンディングでよみがえらせた実績があります。 期日は5月18日。 10ドルで公式ページに名前が載るそうです。 みんなの力でぜひ復帰させたいですね。

・ISEE-3 Reboot Project
http://www.rockethub.com/42228


(藤井:平塚市博物館 2014年05月)