連載:身の回りの光の科学

【第3回 レーザーポインター】

 「レーザーポインターってどういう仕組みなの?」

みなさん、こんばんは。Noguchiです。朝晩の気温が下がり、夏も徐々に終わり秋の 気配を感じる季節になってきましたね。今日は、皆さんが一度は見た事がある道具に ついて紹介したいと思います。「レーザーポインター」です。

プレゼンを行う際に指し棒の代わりに使われることも多いので人によっては身近なものではないでしょうか。 僕たちも観望会などで星を指し示すのに使用したりします。 レーザーポインターの良い点は、暗い場所で使える事や遠くまで指し示すことができることですが、今回はその仕組みを、有名アニメをイメージして簡単に説明したいと思います。

 レーザーポインター(以下レーザー)の特徴は、主に3つです。
1つめは、直進性です。 レーザーから出る光は広がることなく、真っ直ぐに進みます(これは指向性ともいいます)。
2つめは、単色性です。いろんな色が混じる事無く、1つの色の光(エネルギーが同じ)で出来ています。
3つめは少し難しいですが、レーザー同士を重ね合わせると光の波の山と山、谷と谷がそろい強め合う可干渉性という性質があります。
これらの特徴に対し、一般的なランプ等の光源からは、四方八方に広がる光が発せられ、いろんな色も混ざっています。 蛍光灯が白いのもその理由です。

 光の三原色(各色が混ざると白色になります)


 ランプとレーザー光の特徴の違い

 では、どうしてレーザーはこのような特徴があるのでしょうか。
レーザーは、”誘導放射による光の増幅”という”Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation”の頭文字をとって“LASER”と言われます。 『誘導放射?増幅?』ってなりますよね。

 では、簡単に説明しますね。 光を出すことを放射といいます。 この放射は、原子や分子といった小さな世界で起こっています。 原子や分子は外部からエネルギーを吸収すると、下準位(低いエネルギー状態)から、上準位(高いエネルギー状態)に移ります。 この状態を励起状態と言います。 イメージでいうと(もちろん原理は違いますよ!)、ドラゴンボールに出てくる孫悟空がある時ご飯を食べてスーパーサイヤ人になったと考えてください。 スーパーサイヤ人はずっと長く続かないですよね。 かめはめ波を打つと元の状態に戻ってしまいます。 もちろん出せるパワーも、食べたご飯分ですよね(他のみんなからの元気玉は考えません)。 原子にとっても励起状態は、不安定で長く同じ状態ではいられません。 すぐに低いエネルギー状態に戻ろうとします。 これを遷移といいます。 このときに原子はエネルギー差に相当する光を放出します。 この現象を自然放射と言います。
この自然放射と誘導放射は別の話です。

では、誘導放射とは何なのか。

 レーザーが通常のドラゴンボールの孫悟空と違う点は、放射された光が同じ様に励起状態にある他の原子に衝突して、同様の遷移を誘発するところにあります。 つまり、スーパーサイヤ人状態の悟空が複数いたとして、一人が打ったかめはめ波が別の悟空にあたった場合、その瞬間にその悟空もついカメハメ波を打ってしまいます。 そして2回目のカメハメ波が別の悟空にあたってしまうと、その瞬間にかめはめ波を……ということが起こっています。 (あくまでもイメージであることを忘れないでください笑) このように他の原子から出る光に誘導されて放射される光を誘導放射と言います。


 誘導放射(位相・方向が同じ)

 つまり、自然放射の光から、誘導されてどんどん光が増幅していくので、”誘導放射による光の増幅”という意味 の“LASER”になったんですね。 そして、その光は全て同じエネルギーであるので、単色の光となります。 また、誘導放射された光は位相(波の山や谷)と進行方向がそろっているので、最初にあげた3つの直進性・単色性・可干渉性を持ちます。 どうですか?少しはレーザーについて分かっていただけたでしょうか。

 今回は空の話ではなく、「レーザーポインター」という身近にあるミクロの世界で起こる光の科学について説明しました。 しかし、今回の原理は、地球上だけではなく宇宙の星々から出ている光にも関係している話なのです。
例えば、”誘導放射によるマイクロ波の増幅”として”Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation”の頭文字をとって”maser(メーザー)”というものが存在します。

 宇宙には大量に原子や分子が存在します。 星から発せられた光が、エネルギーの高い原子や分子の中を通過すると、メーザーを起こすことがあると言われています。 水分子や水分基、一酸化ケイ素を起源とするメーザーがすでに見つかっており、メーザーの観測によって星の運動などがよく調べられています。 ちなみにメーザーが発見されることで知られているのはブラックホール周りの降着円盤や星形成領域、赤色巨星などが挙げられます。 また種となる星の光が十分に増幅されて地球に届くので、電波望遠鏡では望遠鏡の方向を確認する電波源として用いられることもあります。


 大質量星形成領域IRAS 20126+4104の赤外線画像(R.Cesaroni et al.2013)



参考:
・国立天文台 大量のガスを一気に呑みこむ小さな怪物天体
http://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2015/06/02/j_index.html
・株式会社キーエンス レーザの仕組み
http://www.keyence.co.jp/marking/special/school/study/principle.jsp
・生物物理計算化学者の雛
http://masa-cbl.hatenadiary.jp/entry/20130109/1357738635
・大質量星形成領域が銀河面から遠ざかる様子をVERAで観測
http://www.astroarts.co.jp/news/2015/05/29vera/index-j.shtml


(野口: 2015年09月)