連載:あなたの知らない宇宙

【第2回 宇宙最強の光「ライマンアルファ」】

 みなさんは「ライマンアルファ」という名前を聞いたことがありますか?
 おそらくほとんどの人が「ない」と答えることでしょう。
 一方で、137億歳のこの宇宙で見付かった銀河のうち、最も遠いものが129億光年 かなたにあることを知っている方は、そんなに少なくないのではないでしょうか。
 今回は、聞き慣れない「ライマンアルファ」という光と、それを使ったものすご く遠くにある銀河を見付ける研究成果を紹介したいと思います。

 虹に代表されるように、光にはいろいろな色(=波長)があります。太陽などの 恒星は、いろいろな色の光を連続的に放っていますが、原子や分子などのガスから は、ある特徴的な色の光だけが出てくることが知られています。「ライマンアルファ」 は、水素原子から出てくる特徴的な光のひとつで、水素原子からは最も強く放たれ る光です。色は、と言うと、残念ながらライマンアルファは紫外線なので、人間の 目には見えません。
 この「ライマンアルファ」という光、宇宙最強の光とも言うことができるのです。 というのも、水素原子から最も強く出る光で、水素原子は宇宙に一番たくさんある 原子だからです。

 この「宇宙最強の光」ライマンアルファは、星が活発につくられているところで たくさん生まれるという特徴があります。星の生産工場である銀河では、ライマン アルファもたくさん生まれていることになります。銀河は遠くにあるほど暗くなっ てしまうため、遠くにある銀河は非常に見付けにくいです。しかし、活発に星を作 っている銀河なら、ライマンアルファを望遠鏡で捕まえることで、見付けられるか もしれません。私たちの住む銀河系では、およそ一年に一個の太陽が生まれる割合 で星がつくられていますが、その10倍の割合で星をつくっている銀河なら、はるか 130億光年かなたにあっても見付けられるほど、ライマンアルファがたくさん生ま れているのです。

 そこに目を付けた天文学者たちは、ライマンアルファだけを通す特殊なフィルター(*) を望遠鏡に付けて、遠くにある銀河を見付けようと1990年代から頑張ってきました。 そして次々と、 100億光年を越える距離にある銀河が見付けられました。現在、最 も遠い銀河のトップ10は、すべてこのライマンアルファで見付けられた銀河です。 ライマンアルファはやっぱり宇宙最強の光ですね。

 このライマンアルファ、水素原子からとても強く放たれるのですが、一方でわず かの水素原子によって、すぐに吸収されてしまいます。宇宙最強の光は、そんじょ そこらの光とはスケールが違うのです。この水素原子によって吸収されやすいとい う特徴を利用して、前号で紹介した「宇宙の再電離」がいつ起こったのかを調べる 研究が、現在盛んに進められています。宇宙の再電離の謎が解ける日も、そう遠く ないのかもしれません。


*正確には、宇宙膨張の効果によって遠くから来る光は波長が伸びる(赤方偏移) ため、赤方偏移したライマンアルファを通すフィルターのことです。通す波長の幅 が狭いため、狭帯域フィルターと呼ばれます。


(小林:国立天文台 2008年09月、10月)