連載:あなたの知らない宇宙

【第9回 望遠鏡の『視力』をあげる技術】

 突然ですが、皆さんの視力はどれくらいでしょうか? 1.2?後ろの席でも黒板がば っちりですね。 0.1ない?それは眼鏡やコンタクトが欠かせませんね。え、5.0!?凄 い、遠くのものまでよく見渡せますね !そういえば、視力はどのように測っている のでしょう。

 視力検査の時を思い出して下さい。ワッカの途切れた方向を5m位離れた所から「 下、左…」と答えていきますよね。視力は環の中で切れている部分を見込む角度で 決まります。角度が小さいほど視力は良く、例えば視力 1.0は途切れた部分の角度 が1分角(=1度の60分の1)になっています。

 実は、望遠鏡にも視力があり『回折限界』と呼ばれています。回折限界θはとら えたい光の波長』λ[ m]と望遠鏡の口径(鏡やレンズの直径) D[m]を用いて
 θ=70 * λ/D [度]
と表され、望遠鏡の口径が大きいほど小さくなり、したがって視力は良いことにな ります。

 ハワイにあるすばる望遠鏡の回折限界は2[μm]の波長で0.06秒角(1秒角は1分 角の60分の1)で、これは視力1000に相当します。何と約5km離れた位置から視力検 査表の1.0の環を見て途切れた方向が分かります!

 しかし、地上の望遠鏡はこの回折限界をそのままで得ることができません。それ は地球には大気があり、その温度が均一でないこと等により像が歪んでしまうから です。すばる望遠鏡の場合、視力は 100にまで落ちてしまいます。せっかく大きな 望遠鏡を作っても、大気が邪魔をして視力が無駄になるのは残念です。そこで、望 遠鏡本来の視力が発揮できるように1980年代ごろから補償光学という分野が発達し てきました。これは、毎秒数1000回くらいのペースで光のやってくる方向を揃えた り、形の変わる鏡で波の位相を均一にしたりすることで、大気によって歪められた 像を奇麗にする手法です。補償光学の発達のおかげで、これまで 1つの天体と思わ れていたものが複数の天体に分けて見えたり、天体の細かい描像が見えたりするよ うになりました。
※参考URL:視力について
http://www.ite.or.jp/study/musen/tips/tip09.html

※参考URL:すばる望遠鏡における補償光学
http://www.naoj.org/Pressrelease/2006/11/20/j_index.html


(森谷:京都大学 2009年09月)