連載:あなたの知らない宇宙

【第13回 一日の長さは延びている?!】

 みなさん、締め切りに追われている時、「一日がもっと長かったら!」と思った ことはありませんか?楽しみな旅行の予定を前にして、「早く明日が来てほしい!」 と思ったことは?おそらく誰もが一度はこういう気持ちを抱いたことがあることで しょう。

 長い地球の歴史において、一日の長さはずっと同じではありませんでした。少し ずつですが、だんだん延びてきて現在の24時間になったのです。どれくらい「少し ずつ」かというと、「100年間でおよそ 0.0017秒」。私たちが生きている間には、 上に書いたようなささやかな(?)願いは叶えられそうにありません。ですが、お よそ25億年前には一日の長さは12時間、逆に25億年後には一日は36時間になります。 わずかのズレも、積もり積もればスゴイことになります。

 「一日の長さが延びている」ということは、「地球の自転が遅くなっている」と いうことです。その原因は地球の衛星「月」にあります。月の質量は、地球のおよ そ100分の1、月までの距離は地球の直径のおよそ30倍です。これは太陽系の他の惑 星とその衛星の関係に比べると、ずっと重い衛星がずっと近くにあることになりま す。このような衛星から惑星にはたらく重力は、場所によって大きく変わります。 この場所による重力の違いは地球上では潮の満ち引きを引き起こすため、「潮汐力」 と呼ばれています。

 ここからは、図を描いて考えてみてください。潮汐力によって、月に最も近い側 と最も遠い反対側では海面が盛り上がり、その2点に対して垂直な場所では海面が 下がります。海面は全体としては楕円のような形になるわけですが、海面がこのよ うな形になるまでにはある程度時間がかかります。この間に地球はわずかに自転し ており、地球の自転速度と月の公転速度が違うとき、楕円の盛り上がった長軸の先 に月はいません。この時、月からはたらく潮汐力はどうなっているでしょう?楕円 形の海面の盛り上がった2点のうち、月から近い側の方が遠い側より重力が強くな るので、潮汐力は地球の自転と反対向きにはたらきます。こうして自転と反対側に 引かれた海水が、海底との摩擦によって地球の自転にブレーキをかけ、地球の自転 はどんどん遅くなるのです。このような効果は「潮汐摩擦」と呼ばれています。

 潮汐摩擦によって、月と地球の間の距離も遠ざかっています。月までの距離は、 NASAのアポロ計画で月に鏡が置かれて以来、そこに地球からレーザー光を当てて返 ってくるまでの経過時間から、正確な測定が可能になりました。その結果、一年間 に 3.8cmずつ遠ざかっていることが実際に確認されています。月までの距離は現在 38万kmですので、この変化はとても小さいものです。しかし、積もり積もれば当然 これも大きくなり、およそ40億年後には月までの距離は現在の約 1.4倍に!!遠い ものほど小さく見えるので、40億年後の地球から見た月は、現在の7割くらいの大 きさしかないでしょう。こんな小さい月では太陽を完全に隠すことができないため、 昨年7月に見られたような皆既日食はもう起こらなくなります。

 では、潮汐摩擦によって地球の自転はどこまで遅くなるのでしょうか。潮汐摩擦 がはたらく原因は、地球の自転速度と月の公転速度が違うからです。地球の自転速 度が遅くなって月の公転速度と同じになると、もう潮汐摩擦ははたらかなくなるの で、一日の長さはこれ以上変わりません。それは、今からおよそ40億年後のことに なります。このときには、地球の自転速度と月の公転速度が同じですから、地球上 の決まった場所からしか月は見えないことになります。締切に追われた方にとって は一日が長くなって嬉しいでしょうが、待てど暮らせど月が出てこない夜空はきっ とどこか淋しいでしょうね。

☆参考 URL:天体(惑星)としての地球(4)
http://www.s-yamaga.jp/nanimono/uchu/jikokutokoyomi-02.htm


(小林:国立天文台 2010年05月)