連載:あなたの知らない宇宙

【第15回 月ってどうやって研究してきたの?】

 月は約46億年前に出来ました。それ以来、月は地球の一番近い衛星として親子 のように、双子のように寄り添ってきました。大昔の人々もきっと月を見て色んな 事を考えていたのでしょうね。そして神話やおとぎ話で月に言及しているのは、も しかしたら作者の方が月に魅せられたからかもしれませんね。私も月に魅せられた のがきっかけで月研究をするようになりました。
 月を系統立てて研究が始まったのは、ガリレオが約400年前に望遠鏡を月に向 けてから始まりました。そしてそれ以来、多くの人たちが望遠鏡で月を見て月のク レーターや月の海(暗い部分)のことを研究してきました。その中には月のクレー ターは火山の噴火によって出来たものだとする主張などもありました。現在ではク レーターは隕石の衝突によるもの、そして月の海はベースンと呼ばれる直径数百km 以上の巨大クレーターに火山活動による溶岩が流れ込んだものという事が分ってい ます。
 月の形成過程(歴史)を大きく分けると次のようになっています。(※1)

@月原始球体形成・・・・・・・・・・約46・45億年前
A初期地殻形成時代・・・・・・・・・約45〜43億年前
B隕石重爆撃時代・・・・・・・・・・約43〜38億年前
C火山活動時代・・・・・・・・・・・約42〜35億年前
D平穏時代・・・・・・・・・・・・・約35億年前〜現在

 これらの結果はアポロ時代、すなわち1950年代後半より行われた人工衛星を 使用した研究により得られた知見です。現在では望遠鏡を使用した研究より、月探 査用人工衛星を使用した研究が主になっています。日本も2007年9月に大型月 探査衛星SELENE(愛称:かぐや)を打ち上げています。その後、中国、インド、米 国と続いて打ち上げられました。現在もこれらの国に加えて欧州連合でも月探査衛 星の計画が始まっています。肉眼で研究していたのが望遠鏡へと変遷し、今は直接 人工衛星を送って研究する時代へと変遷しています。

参考:
 「かぐや」の成果報告ページ
http://wms.selene.jaxa.jp/

 「かぐや」について
http://www.jaxa.jp/projects/sat/selene/index_j.html

※1
 月は35億年前からは大きな地殻の変形・置換は行われていません。地球を参考に すると、地殻のプレートテクトニクス理論および観測的研究により地球の地殻で最 も古く確認できるものは約20億年前のものでありそれも地球全体の約 5%に充たな い範囲しか存在していません。これからも分るように月の探査は地球の過去の状態 を維持している、いわば地球型惑星の化石探査的役割を担っています。
 また月の地殻構造は地球と違い 1枚のプレート構造で形成されています。これは 初期地殻構造形成後、大きな地殻再配置などが無かった事を意味しています。この 事実と上記の過去の状態を維持している構造とを考慮して考えると、月の地殻形成 史が地球型惑星の形成過程理解に重要な位置を持つ事が理解できます。

 @はマグマオーシャンとも言い、月はマグマの海で覆われた状況で始まったとさ れるものです。
 Aの時代では、約2億年の年月をかけてアルミニウムやシリコンなど比較的地殻 成分中で軽い物質が凝固して斜長岩となり地殻表面上に進出しました。その後KREEP (K, Rare Earth Element, P)と呼ばれるカリウム、放射性壊変系列物質、リンなど の希少物質が凝固しその下の地殻を形成しました。
 Bの隕石重爆撃時代を迎え、巨大隕石衝突による直径1000kmを超える巨大クレー ター(ベースン)が形成され、また1000km以下のクレーターもこの時代にほとんど 作られました。しかしながらこのベースンの形成は月の表側に集中しています。ま た、地殻深度も月の表裏で一定ではなく月の表側では約60kmそして裏側では約 100 kmと推定されています。この隕石重爆撃により月表面の構造は粉砕され細かな砂上 構造(レゴリス)が形成され月面上を覆うようになりました。このレゴリスが月の 台地に見られる太陽光によって明るく照らされるアルミニウム豊富なシリカ構造レ ゴリスです。
 ベースンの形成によって大きな窪地が生じたが、その後Cの火山活動時代により 溶岩が流れ出しベースン内に於いて凝固するようになりました。この溶岩物質は鉄 分が豊富でアルミニウムに乏しく地上からの観測において暗く見られる地域であり、 この地域を海(Mare)と呼んでいます。この海を中心とする地域は非常に起伏に富 み、また地構や裂溝などが存在しトリウムやウラニウムが豊富な地域であるとされ ています。
 その後Dの平穏時代を迎え現在にまで至っています。


(木下:神戸大学 2010年09月)