連載:あなたの知らない宇宙

【第16回 暗黒乱流】

 ペガスス座の M15などの球状星団や、アンドロメダ銀河が見頃の季節ですね。球 状星団の中の数十万個の星たちや、銀河の中の数千億個の星たちがバラバラになら ずに集まっていられるのは、重力のおかげです。重力は、自然界に存在する 4種類 の力のうち、唯一遠くまで届いて星たちをまとめます。その重力は、その星たちが 自分たち自身で作り出したものです。星たちは自分自身が作る重力でお互いに固ま っているのです。球状星団や銀河、そして銀河団はこのように自分自身で構造を作 る『自己重力』のシステムです。

 この自己重力システムは、自らが作り出した構造であるがゆえに、スケーリ ングという顕著な規則性を持っています。たとえば、天体の自転の勢いを表す角運 動量は、その天体の質量の 2乗にほぼ比例します。自己重力システムはこの他にも 様々なスケーリングを持っていますが、その理由を全部系統的に説明する理論はあ りませんでした。

 一方、これら自己重力システムの主な成分は星ではありません。その質量の 100 倍以上もの光らない物質があって、これが銀河や銀河団の構造を形作ってきたので す。でも、私達はこの見えない大量の物質が何であるかわからないので、それは暗 黒物質という名前で呼ばれています。この暗黒物質が強く結合し激しく運動して天 体を形成してきたのです。

 私達は、この暗黒物質の運動が、乱流の状態に近いことを見出しました。乱流と は、流体の非常に乱れた流れの普遍的なひとつの形態で、私達に身近な空気も海洋 もみんな乱流です。乱流が普遍的であるのは、そのスケーリーングの性質にありま す。そしてそのスケーリングは、天体のスケーリングと本質的に同じなのです。私 達は暗黒物質の乱流理論から、天体の持つスケーリングが(すべてではありません が)ことごとく説明されることを主張しました。

 昔、銀河が乱流からできる、という理論がありました。しかし当時は私達にお馴 染みの光る物質の乱流を考えていたので、観測される宇宙背景放射の光が示す等方 性と矛盾してしまいました。でも、暗黒物質の乱流なら、見えないのだから、光を 乱しません。光と相互作用しないのだから散逸もしません。

 乱流が普遍的なら、その様相は銀河や銀河団に留まりません。構成物質は違うけ れども、大きな自己重力ガス雲や原始惑星系円盤のガスも、乱流に由来したスケー リングを示すはずで、実際そのようなスケーリングが見えているのです。このよう に、宇宙では、静かに構造が形成していったのではなく、かなりダイナミックであ ったようです。

詳しくは、こちらのページに添付のpdfファイルをご覧ください。
http://www.kyoto-nijikoubou.com/?page_id=58

(中道:京都産業大学 2010年11月)