連載:あなたの知らない宇宙

【第19回 女子高生寒さに負けず月隕石衝突観測研究】

 去年の 9月号では月の形成過程を書かせていただきました。今回も月のことを書 かせていただきます。月のことばかり書くのは、私の研究が「月」ということだけ でなく、地球から見る月の美しさと月光に魅了されているからです。

 一般に、月には大気が無いと知られています (実際には月面から放出されるラド ンガスやネオン、アルゴンといった火山性ガスが僅かながら存在します)。その為、 隕石が地球に落ちてきたときは大気との相互作用で流れ星になり、天空を横切る光 として観察されますが、月では大気が無いため隕石は秒速30km以上の速さで月面に 衝突します。

 その時、衝突エネルギーの一部が光となってほんの一瞬だけ輝きます。これを隕 石衝突による月面突発発光現象(Lunar Transient Phenomenon、以下LTP)と言います。 NASAではこれを常時観測し、月面での隕石衝突の頻度などを研究しています。

 私は人工衛星を利用した月科学が専門であり、 LTPのような地上観測はほとんど していません。ですが2007年、三大流星群の一つである「ふたご座流星群」が隕石 衝突による LTPの観測に適していることを知りました。上弦の月であるため月の西 側が暗い時期であり、隕石群が衝突するのもその暗い部分だったからです。

  LTPを観測するためには観測地点が一カ所だけでは駄目です。発光現象が月面上 で起きたものなのかそうでないのかを区別するためです。

 丁度その頃、ある大学付属女子高等学校の天文部の指導をしていたこともあり、 「 LTPの多地点観測をしてみない?」と話を持ち出しました。彼女達はNASAが研究 していることを自分たちも出来るということでパワフル全快です。学校と掛け合っ て、学校の屋上で制服で行うという条件付きで観測出来ることになりました。

 ふたご座流星群に合わせて私は西はりま天文台公園で観測しました。私はスキ− ウエアを着込む程の防寒体勢でした。一方、女子高校生達は学生服で風吹く屋上で 観測です。観測中は携帯で連絡をとり合っていましたが、どんどん寒さで声が震え ているのが分かる程でした。

 観測の結果、 LTPと思われる物が 6発光あり、その内 3発光は月面上であること が検証されました。発光時間はおよそ30分の 1秒程です。学生たちは総撮影時間 8 時間に及ぶビデオを真っ暗な部屋で何度も見直して発光現象を見つけ出しました。 私たちは目視解析とコンピュータ解析を合わせました。その後更なるデータ解析を 行い、発光エネルギーから衝突体の質量を導き出しました。結果は高校や、天文学 会ジュニアセッションで発表しました。

 高校での発表会では色んな研究グループが発表をしていました。 LTPについて発 表をする学生たちはチーム全員で前に立ち堂々と発表していました。聴衆の大人の 方の質問がありました。「寒かったですか?」学生たちは「学生服はとても寒かっ た〜〜〜」と大きな声で答えました。聴衆の皆から大きな拍手が上がりました。

 ジュニアセッションでは同じ現象を観測した別の大学観測チームの先生から質問 攻めに合っていました。ですが、観測に成功した自信、そして観測後何度も開いた 解析勉強会の知識をフルにひるまずに返答していました。

 今回の「あなたの知らない宇宙」は「あなたの知らない隠れた天文学者達」の話 になりました。


(木下:神戸大学 2011年05月)