連載:あなたの知らない宇宙

【第22回 ベテルギウスはまだまだ大丈夫!?】

 冬の夜空を飾る代表的な星座『オリオン座』。狩人オリオンの肩には、ひときわ 明るく輝く赤い星『ベテルギウス』があります。太陽の20倍の質量を持ち、大きさ は太陽のおよそ1000倍のこの赤色超巨星が、近年、「明日にでも超新星爆発するか もしれない!?」と、注目を集めています[注:1]。「明日にでも」と言っても、そ こは天文学的な時間スケール。爆発するのは「明日から100万年以内のいつか」と、 日常生活の時間スケールからしたらものすごく大雑把です。では、いつ爆発するの かをもっと細かく推定する手段はないのでしょうか。今回は、昨年2011年 9月にド イツの天文学者たちによって発表された、そうした観点の最新の研究結果を紹介し ます[注:2]。

 そもそも、ベテルギウスがいつ爆発するかよく分かっていないのは、意外かもし れませんが、現在のベテルギウスの年齢がよく分からないからです[注:3]。赤色超 巨星という晩年の星であることは分かっていますが、正確な年齢が分かってないた めに、ベテルギウスが超新星爆発で一生を終えるのが「明日から 100万年以内のい つか」が正確に分かりませんでした。

 ドイツの天文学者たちは、ベテルギウス周辺のガスの観測結果を使って、この問 題を解決しました。ベテルギウスのように非常に明るい星は、その強い光で周囲の ガスだけでなく、自分自身の大気のガスをも吹き飛ばします。『恒星風』と呼ばれ るこの現象は、太陽の約10万倍の明るさを持つベテルギウスでは特に強く、毎年約 地球 1個分(100万年で太陽3個分)もの質量のガスが失われていきます。その放出 された『元ベテルギウスのガス』は、周りにもともとあったガスと衝突して、『バ ウショック』と呼ばれる弓状の構造を作ります[注:4]。このバウショックの観測結 果を、さまざまな数値シミュレーションの結果と比較することで、彼らはベテルギ ウスの年齢を推定しました。その結果から、彼らはベテルギウスが赤色超巨星にな ったのは現在から約 4万年以内と結論付けています。天文学的時間スケールで考え れば、つい最近のことですね。

 超新星爆発を起こすには、赤色超巨星になってから約 100万年の時間がかかると 考えられています。この研究結果が正しければ、ベテルギウスが超新星爆発するに は、まだ 100万年近い時間がかかるはずです[注:5]。ベテルギウスが爆発して消え てしまえば、誰もがどこかで見たことのあるオリオン座が形変えてしまいます。ど うやら私たちが生きている間はその心配はしなくてもよさそうですが、肉眼で見え る超新星爆発というド派手な天文ショーを望んでいた方にとっては残念な結果かも しれませんね。

[注:1]
 2012年1月の星空参照。
より詳しく知りたい方は、はてなブックマーク「ベテルギウスの最期:超新星の兆 候とその威力」を参照して下さい。
http://d.hatena.ne.jp/active_galactic/20100213/1266065518

[注:2]
 元論文はこちらにあります。
http://xxx.yukawa.kyoto-u.ac.jp/abs/1109.1555

[注:3]
 星の年齢を調べるには、その星の見かけの明るさと距離から求められる光度が必 要ですが、ベテルギウスまでの距離はよく分かっていません。ベテルギウスまでの 距離は約640光年とされていますが、実は最新の観測結果でも約150光年もの誤差が あります。つまり、「約 640光年とは言ってるけど、490光年かもしれないし790光 年かもしれない」、ということしか分かっていないのです。その為年齢にも大きな 誤差が生じます。

[注:4]
 ウィキペディアの 「ボウショック」 のページ参照

[注:5]
 「超新星爆発間近!?」と思われた観測事実の一つに、「2009年時点のベテルギ ウスは15年前の観測時に比べて大きさが15%も小さくなった」というのがあるので すが、これもベテルギウスが最近赤色超巨星になったという今回の結果とは矛盾し ません。このような不安定な状態は、赤色超巨星になて間もない頃にも起こりうる からです。


(小林:国立天文台 2012年02月)