連載:あなたの知らない宇宙

【第24回 いて座Aスター】

 天空を流れる天の川。皆さん、ご存知ですか?天の川が私たちの属する銀河の中 心方向を横から見た姿であることを。そして、その一番真ん中に太陽の 400万倍も の重さを持つブラックホールが存在していることを。このブラックホールはいて座 の方向にあることから、「いて座 Aスター」と呼ばれています。今回は、この「い て座Aスター」とその周りにある星たちのお話を少しばかり─。

 「いて座 Aスター」の莫大な質量は非常に強い重力を生むことから、「いて座 A スター」の周囲で星は生まれないと多くの研究者が考えてきました。それは一体ど うしてでしょうか?星は宇宙空間を漂う塵やガスがたくさん集まって出来ると考え られています。ところが、「いて座 Aスター」の近くだと塵やガスはうまく集まる ことが出来ません。「いて座Aスター」の近くにある塵やガスには強い重力が働く一 方、少し遠くにある塵やガスには弱い重力が働き、その結果、塵やガスの塊は引き 伸ばされて、バラバラになってしまうのです。

 近年の大型望遠鏡による観測で、「いて座 Aスター」の周囲に年齢が約 600万歳 の若い星(太陽は50億歳!)が 100個以上見つかりました。“それじゃあ、この星 たちは「いて座 Aスター」の近くで生まれたのでは?”と思う方もいるでしょう。 しかし、星は「いて座 Aスター」の遠く、つまり、普通に生まれることのできる場 所から数百万年で「いて座 Aスター」の周囲へ移動できることが分かっているため、 星の生まれた場所について結論はつけられません。「いて座 Aスター」の周囲で生 まれたことを証明するためには、もっともっと若い星を探す必要があるのです。

 そこで、私たちのグループはハワイにあるすばる望遠鏡を用いて「いて座 Aスタ ー」の周囲を観測し、生まれたばかりの若い星がいないかを調べています。もしそ のような星が見つかれば、これまでの理論を覆すことになり、強い重力下での星形 成という新しい可能性を切り開くことになるでしょう。天の川の真ん中で、ブラッ クホールの重力に負けず、今まさに新たな星が生まれているのかもしれません。


(義川:京都大学 2012年07月)