連載:あなたの知らない宇宙

【第28回 電波史上最高の視力で見える宇宙とは?〜アルマ望遠鏡〜】

 天体から届く光(=電磁波)には、波長によってガンマ線から電波まで様々な種類 があり、その性質から効率的に光を捉える方法も異なります[注1]。今回は最新の 電波望遠鏡、アルマ望遠鏡についてお話しましょう。

 アルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計[注2])は大小合わせて66台 のパラボラアンテナで構成される国際望遠鏡[注3]です。アンテナは全て移動可能 で、最大直径18.5kmの電波望遠鏡として機能し、そのときの分解能は6000分の 1度 と、世界最大の視力を誇ります。また、感度も従来に比べ一段と高くこれまでに見 えなかった宇宙が見えると期待されています。では、何故そのような高分解能・高 感度が実現できるのでしょうか?

 望遠鏡の分解能(=視力)は口径が大きいほど高くなります。口径が大きければ大 きい大き程細かな描像が見えますが、建設できる望遠鏡の大きさには限りがありま す。特に、電波は可視光線より 1万倍も波長が長い為、例えば人の視力と同じ程度 の望遠鏡を作るのにも口径100mのアンテナが必要です。その為、望遠鏡 1台で分解 能を高めるのは現実的ではありません。そこで用いられるのが『干渉計』と呼ばれ る手法です。これは複数台のアンテナで得られた波を合成し、波が最もよく合う条 件から天体の位置を精確に測定する方法です。干渉計は電波が「波形そのものをデ ータとして保存できる」という利点を活かしており、個々のアンテナは小さくても 大きな口径の望遠鏡と同じ分解能を発揮することができるのです。アルマ望遠鏡で は累計12mのアンテナ54台と 7mのアンテナ12台を精度よく配置することで非常に高 い分解能を実現しています。

 また、アンテナの面をより滑らかなものにし、高感度・低ノイズの受信機の開発 も行うことで非常に高い感度も同時に実現しています。更に、特にミリ波やサブミ リ波と呼ばれる比較的開拓されていない波長の光で精度のよいデータが取得できる ようになります。これはアルマ望遠鏡が建設されるアタカマ砂漠は標高5000 mにあ り、地球大気中の水蒸気による影響を受けにくいからです。

 それでは、アルマ望遠鏡でどのような宇宙の姿が見えてくると期待されているの でしょうか?まず、宇宙初期の銀河は電波やサブミリ波で明るいと考えられており、 宇宙初期の銀河の姿を捉えることができると期待されています。また、恒星の周り で形成される惑星形成円盤はサブミリ波で輝く温度をもっており、アルマ望遠鏡で 観測することで恒星の生まれる仕組みやそれに伴う惑星系の誕生の過程を非常に詳 細に観測できると期待されています。

 アルマ望遠鏡は2013年 3月14日(日本時間)に開所式を迎え、これまで建設と一部 の施設で行っていた初期科学運用から本格的な科学観測を行う段階に移行しました。 アルマ望遠鏡が見せてくれるまだ誰も知らない宇宙の姿に期待ですね。

<参考>
国立天文台、アルマ望遠鏡のwebサイト:
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/

注1:
可視・(近)赤外線望遠鏡については過去に紹介しました。
第4回
第9回
注2:
英語名は
Atacama Large Millimeter/submillimeter Array=『ALMA』です。ALMAはスペイン 語で『たましい』という意味です。

注3:
アルマ望遠鏡はヨーロッパ、東アジア、北米各国がチリ共和国と協力して建設して います。


(森谷:広島大学 2013年03月)