連載:あなたの知らない宇宙

【第33回 宇宙の年齢は 138 億歳〜この数年で宇宙年齢が 1 億歳増えた??〜】

 今回は、今年2013年 3月に発表された最新の宇宙年齢と、それに関係する「測定 の難しさ」について紹介します。

 黄華堂通信 2013 年 1 月号の「あなたの知らない宇宙」では、
・ NASA の WMAP(ダブリューマップ)衛星が『宇宙の交響曲』を観測
・ その結果、私たちの宇宙の年齢を 137 億歳と測定
と紹介しました。今年の 3 月、この宇宙年齢が 138 億歳に書き換えられたのです。 欧州宇宙機関(ESA)が発表したこの成果は、2009 年 5月に打ち上げられたPlanck (プランク)衛星が測定したものです。Planck 衛星は、WMAP 衛星と同じ『宇宙の 交響曲』を観測しました。ではなぜ、WMAP 衛星と 1 億年の違いが生じたのでしょ うか?WMAP衛星が観測してからPlanck衛星が観測するまでの数年間で、宇宙は 1億 歳年老いたのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。実際には、Planck 衛星の測定結果はWMAP衛星の結果と違うとは言えないのです。

 測定には、『誤差』と呼ばれる『不確かさ』が常につきまといます。これは、宇 宙年齢という難しいものの測定だからではありません。身長測定のような身近な測 定でも、必ず誤差があります。私の身長を例に考えてみましょう。今年の健康診断 を受けた結果、私の身長は176.8 cmでした。では、私の身長は「176.8001 cm でも 176.7999 cm でもなく、ぴったり 176.8 cm である」と言えるでしょうか?ちなみ に、健康診断で使われた身長計は、0.1 cmまでデジタル表示されるものでした。こ の場合、私の身長は「176.7 cmや 176.9 cmというよりは 176.8 cmに近い」と言え ますが、「ぴったり 176.8cm」とは言えません。正しく表すには、「私の身長は 176.8±0.1 cm」となります(±はプラスマイナスと読みます)。
すなわち、健康診断の結果、私の身長の『真の値』が「176.7cm 〜 176.9 cm の間」 にあることが分かった、とならば言えるのです。

 宇宙年齢の測定結果に話を戻して、WMAP衛星とPlanck衛星が測定した宇宙年齢を 正しく表してみましょう。WMAP 衛星の測定結果は、「137.4±1.1 億年」でした。 宇宙年齢の『真の値』は、「136.3 億歳 〜 138.5 億歳の間にある」という結果で す。一方Planck衛星の結果は「137.96±0.58 億年」でした。真の値は「137.38 億 歳 〜 138.54 億歳の間にある」ことになります。Planck衛星が測定した宇宙年齢は、 WMAP衛星が測定した宇宙年齢の範囲にほとんどすっぽり入っているのが分かります ね。誤差も含めて考えれば、両者の結果は矛盾していないのです。

 何だか面倒なこの誤差は、どんなに精密な測定をしてもゼロにはできません。そ して、身長測定のような身近な測定を含む、全ての測定につきまとってきます。宇 宙年齢が 1億歳増えた2013年をきっかけに、ニュースや街中で見かける数値が「誤 差を含めても違うと言えるかどうか」について考えてはいかがでしょうか。


(小林 正和:愛媛大学 2013円09月)