連載:あなたの知らない宇宙

【第34回 ブラックホールが星を食べる瞬間に迫る 4】

 2013年夏 SgrA*にガス雲が落下し、その時の光が観測されることが予想されまし た。ところが現時点ではそのような兆候は見られていません。そこで、今回は、 SgrA*がどのように発見され、これまでにどのような研究されてきたか。その観測 的な歴史に迫ります。

 私たちが住む地球のある太陽系は、天の川銀河(以下、銀河系)に存在します。 そしてその銀河系の中心には SgrA*というブラックホールが存在するといわれてい ます。ですが、ブラックホールは目には見えません、そこでその間接的証拠として 「降着円盤」という現象を前回は紹介しました。しかし、実際銀河系の中心領域は、 円盤部の濃い塵(暗黒星雲)にさえぎられているために、可視光(大雑把には人間 が見える光のこと)では見えません。そのため、銀河系の中心がどうなっているか は、長い間謎に包まれていました。

 1974年、その謎がついに解明されます。グリーンバンク天文台の R.Balickと R.Brownは 35kmの電波干渉計でフリンジ(干渉縞:電波干渉計の観測データを解析 したときに得られる)を発見し、銀河系中心に点状の電波源があることを証明しま した。この電波源が SgrA*です。では、なぜ電波干渉計では見つけることができた のでしょうか。それは SgrA*が電波で光っていて、さらに、暗黒星雲は電波の特定 の波長に対しては透明だったからです。

 その後、電波だけでなく赤外線や X線などいろいろな波長の光で観測されるよう になります。すると、普段は電波でしか見えない SgrA*が(近)赤外線の光で見え ることが時々起きるではないですか。これは降着円盤からブラックホールに大量の ガスが落ち込むことで起きるフレアという現象によるものだと考えられました。そ して、中心にはブラックホールがあると考えられるようになったのです。そうなれ ば、そのブラックホールにガスが落ちるときにできた降着円盤( 8月号参照)から X 線が放射され、それも観測できるとういことで、 X線での観測も説明できますね。
 さらに近年、この SgrA*の周囲に、若く大きな星団が存在することがわかってき ました。ヨーロッパ南天天文台は、この星団の星々の運動を、超大型望遠鏡(VLT) などの赤外線観測装置でモニターし、その軌道を求めました。その結果 SgrA*は太 陽質量の400万倍の質量をもったブラックホールがあることがわかったのです。

  SgrA*が発見されてから、これまでには今回紹介した研究のほかにも数多くの研 究がされてきました。そしてこの度2013年夏に予想された観測は、残念ながら今の ところありません。この理由としては中心ブラックホールの質量の見積もりやブラ ックホールとガス雲の距離の見積もりが違うかったことなどが考えられます。しか し発見から40年となる2014年、 SgrA*にガス雲が落ちるかもしれません。その観測 からまた、歴史的な大発見がされることを期待したいですね。


(小林:大阪教育大学 2013年10月)