連載:あなたの知らない宇宙
【第35回 サングレーザー彗星 ─ 太陽系の外縁から中心へと旅する彗星】
いよいよ今月末には「アイソン彗星(C/2012 S1 ISON)」が太陽に近付きます。皆
さんの中には、なかなか予想(期待)通りに明るくならない中、急増光のニュースを
受けて驚かれた人もいるのではないでしょうか。ところで、どうしてアイソン彗星
はとても明るくなる、と考えられているのでしょうか?それは、アイソン彗星の軌
道と大きさに秘密があります。今回は彗星についてお話します。
まず、アイソンや他の彗星はどこからやってくるのでしょうか?彗星のルーツは
私たちの太陽系が形成された時期に遡ります。太陽系に存在する惑星は、原始太陽
系円盤中に形成された微惑星が合体・集積してできたと考えられています。微惑星
の内、特に氷雪限界線(水分子が液体として存在できる境界)よりも外側で形成さ
れたもは氷と塵が混ざっており、氷微惑星と呼ばれています。
氷微惑星の内、惑星として取り込まれなかったものが何らかの作用で太陽系の外側
に移動し、オールトの雲(Oort cloud)やエッジワース−カイパーベルト(Edgeworth-
Kuiper belt) といった構造を形成していると考えられています。
彗星は、オールトの雲やエッジワースカイパーベルトに残存している微惑星(太陽
系外縁天体)が、何らかの外的要因[注1]によって太陽系の内部へ到達する軌道に
進化したものと考えられています
彗星が太陽に近付くにつれ、その表面に存在する氷や二酸化炭素、一酸化炭素な
どが昇華したり、塵が放出されたりして「コマ」と呼ばれるぼんやりした光の球を
形成します。更に、このコマが太陽の影響を受けて「尾」を形成します。尾はその
成分や太陽から受ける影響によって「塵の尾」「イオンの尾」「ナトリウムの尾」
の 3種類に分けられています。
彗星が明るくなるのはコマや尾に含まれるガスやイオン、塵が輝くからです。因み
に、この時放出された大量の塵が地球の軌道上に残ると、地球がそこを通過した際
に地球に落下し、流星群となります。
さて、彗星が太陽からおそよ 1天文単位、つまり地球の公転軌道辺りまで近付い
てくるとコマや尾が目立って見えてきます。彗星が太陽に近付けば近付くほど、放
出されるガスや塵の量が多くなる為、コマは明るく、尾は明るく、長く伸びていき
ます。つまり、太陽に近付くほど、彗星は明るく見えます。
とはいっても明るさは太陽からの距離だけで決まるのではなく、彗星の大きさや成
分、表面の様子、それに地球との位置関係によって変わります。その為精確な予測
が非常に難しくなります。
アイソン彗星は太陽の中心から 約190万kmまで近づきます[注2]。太陽の半径は
約70万kmであることを考えると、太陽の極めて近くを通過することが分かります。
このように、太陽の表面付近にまで近づく彗星を「サングレーザー」と呼んでいま
す。
アイソン彗星が明るくなると期待されているのは、サングレーザーだからです。
更に、一般的なサングレーザーの大きさは1000 m以下のものが殆どなのに対して、
アイソン彗星の大きさは 1km以上と推定されています。[注4]サングレーザーの中
でも大きな彗星なので、とても明るくなると考えられているのです。
また、太陽に極めて近付く為、彗星自身が蒸発あるいは崩壊する可能性もあるので
はないかとも言われています。
アイソン彗星の今後の動向が楽しみですね。
[注1]
惑星の摂動や銀河潮汐力影響、太陽系と恒星や巨大分子雲との接近遭遇など、様々
な原因が考えられています。
[注2]
太陽との距離は、彗星の軌道を調べることで見積もることができます。大まかに、
彗星の軌道は太陽との 2体問題(力学問題)で解けます[注3]。
彗星の軌道は楕円軌道か放物線を描きますが、ハレー彗星(P/1682 Q1 Halley)など
のように何度も太陽に近付く回帰彗星は楕円軌道なのに対して、アイソン彗星や2013
年春に太陽に近付いたパンスターズ彗星(C/2011 L4)は放物線軌道をもち、二度と帰
ってきません。
余談になりますが、彗星に冠される符号で Pから始まるものは回帰彗星、 Cはそう
でない彗星(もしくは回帰年が非常に長い彗星)になっています。
[注3]
厳密には他の惑星などの影響を受けます。
特に、彗星が他の惑星付近を通過するときには、その重力を受けて軌道が変わった
り、中には惑星に衝突したりするものもあります。
(例:1994年、シューメーカー・レヴィ第9彗星の木星への衝突)
[注4]
彗星の大きさは直接測定するのが非常に難しく、様々な仮定を含んでいる為、厳密
な大きさは分かっていません。
(森谷:広島大学 2013年11月)
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