連載:あなたの知らない宇宙

【第37回 ブラックホールが星を食べる瞬間に迫る 5】

  SgrA*について 1年間、隔月で紹介してきました。しかし2014年になってもいま のところ、 SgrA*にガス雲が落ちたことを示唆する観測は報告されていません。(泣) 今回は少し指向を変えて、ブラックホールはそもそも存在しないのではないかと主 張した専門家のお話です。

 どんなものでも、光さえも吸い込む天体ブラックホール。ところが、そんな天体 から粒子が放出するメカニズムを提案した物理学者がいました。それが車椅子の物 理学者「S.W.ホーキング」です。さらに彼は、粒子が放射され続けると、ブラック ホールは質量を徐々に失い、最後には蒸発して消えてしまうと発表したのです。こ の放射は彼の名前をとって“ホーキング放射”と呼ばれています。ホーキング放射 は相対性理論と量子論を組み合わせて初めて理解できる、きわめて難しい現象です ので、ここでは説明しません。ですが折角なので蒸発の話を少ししましょう。

 ブラックホールには光が脱出できるかの境界、事象の地平面というものがありま す。つまり、ブラックホールはこの「事象の地平面」によってそのサイズを決める ことが出来ます。ブラックホールにサイズがあるという事は、そこから放出される 粒子の時間当たりの量には限界があることになります。つまり、ブラックホールが すべての粒子を放出するにはある程度の時間がかかるという事です。具体的には、 恒星質量のブラックホールであれば宇宙年齢の 1億倍の 1億倍の・・・と 1億倍を 7回かけてもまだ足りないような時間です。途方もないですね。つまりブラックホ ールがすべての粒子を放出し、蒸発することを現在観測することは無理なのです。 では恒星質量やそれより重いブラックホールが半永久的に蒸発しないからと言って、 ブラックホールの蒸発が非現実的な理論上の産物なのかというと、そのようなこと はありません。きわめて質量の小さなブラックホールの存在が議論されており、そ のようなブラックホールはまさに、ホーキング放射で蒸発してしまうと考えられて います。

 さらに、ホーキングは今年の 1月22日付けで短い論文を公開しました。そこでな んと「これまでに考えられてきたようなブラックホールは存在しない」と主張しま した。古典理論ではエネルギーと情報はブラックホールの「事象の地平面」を抜け 出せないと言われているのですが、量子理論ではそれが可能であると示唆されると いうパラドックスを取り上げ、ブラックホールは情報とエネルギーを消滅させるの ではなく、新しい形でまた空間に開放することを発表しました。そして、「光が無 限に抜け出せない領域という意味でのブラックホールは存在しない」と結論付けま した。

 いったい何を言っているのだ?という感じですね・・・残念ながらこの論文は、 査読(論文が論理的に間違っていることを言っていないかのチェック)がないので、 その取扱いは慎重であるべきです。つまり、このことが事実だと言い切ることはで きません。ですが、常人には到底なしえない発想で数々の理論を発表する物理学者 ホーキング、なによりいまだに数々の謎に包まれたブラックホールという天体に今 後も、是非、注目してください!!


(小林:大阪教育大学 2014年02月)