連載:あなたの知らない宇宙

【第44回 円盤を持つ星】

 突然ですが、皆さんは「星の周りに円盤」と聞いてどんなことを想像するでしょ うか?天文学をされていなければ、星の周りに円盤なんて初めて聞いた方もいるか と思います。天文学を少しかじっていれば、恐らく惑星が出来る現場を想像するの ではないでしょうか。ALMA望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)の活躍 などによって、恒星が生まれる時に存在し、惑星の源となった原始惑星系円盤の様 子が次々と明らかになってきました。ですが、今回話題にする内容は原始惑星系円 盤とは無関係です。

 Be星(ビー・イー・せい)と呼ばれている天体があります。
Bというのは星のスペクトル型[注1]でB型星は温度10000-30000度の恒星です。この B型星の一部は実は赤道方向に円盤を持っています。円盤、といっても1000度くら いのダスト(固体微粒子いわゆる塵)から構成される原始惑星系円盤とは異なり、 温度が約 15000度もあるプラズマでてきている円盤です。大きさも全く異なり、 1000天文単位くらいまで広がっている原子惑星系円盤に対して、Be星の円盤はたか だか数天文単位程度です。

 このBe星の円盤が恒星からの光を散乱して明るく光ります。その為に、 Hα線 (水素の再結合線、波長658.3nm)が周囲の波長の光よりも明るい、いわゆる「輝線」 と呼ばれる状態で観測されます。本来、恒星から見える Hα線は周囲よりも暗い 「吸収線」と呼ばれる状態で観測されるので、ちょっと奇妙です。ですので輝線を 意味する「e」を付けてBe星、と呼んでいます。
(何とも味気ない名前ですね。)


 では、どうして星の周りに円盤が出来ているのでしょうか?
Be星の多くは超高速で自転しています(100km/s〜数100km/s)。どのくらい高速かと いうと、赤道方向のプラズマが受ける重力と遠心力が殆ど釣り合ってしまうくらい 高速です。そうすると、赤道付近にあるプラズマが「ちょっとしたきっかけ」で星 の表面から逃げ出してしまいます。逃げ出したプラズマが円盤として存在している のです。

 一部、と言いましたがB型星の30%くらいがBe星だったりします。例えばカシオペ ア座のガンマ星("W"の真ん中の星)、さそり座のδ星(さそりの頭に当たる3つ並んだ 星の真ん中)、こいぬ座のベータ星(こいぬの頭にあたる星)は、実は円盤を持つBe 星です。すばる(プレアデス星団)にもBe星は沢山あります。

 マニアックだけれど意外に多いBe星。
どうして高速で回転するようになったのか、プラズマが逃げ出すきっかけは何か、 まだまだ解明されていないことだらけです。夜空を見上げた時に「実は円盤がある んだよね」と思って眺めてみるとまた一味違う宇宙が味わえる…かもしれませんね。


[注1]
恒星の分類の仕方の一つで、スペクトル、つまり虹を調べてその温度や特徴的な原 子の種類で分けています。
主に温度の高い方から、O,B,A,F,G,K,Mと呼ばれています。


(森谷:広島大学 2015年02月)