連載:あなたの知らない宇宙

【第45回 宇宙のリチウム工場を新発見!】

 みなさんは、新星爆発という天文現象を知っていますか。
『期待の新星!』という言葉が日常的に使われることもあるので、「急に現れたす ごい人」などと大まかなイメージはお持ちかもしれません。『新星』と名付けたテ ィコブラーエも『夜空に何も無いところから突然現れた星』としてラテン語の「新 しい」という言葉の意味を持つ言葉「Novae」を使用しました。しかし、実際に新 しく星が生まれたわけではなく、もともとそこに存在した2つの星(白色矮星と太 陽のような星もしくはそこから進化した赤色巨星)の相互作用により生じるもので あることが分かっています。
(明るさは太陽の1万倍以上明るくなるほどの爆発です。)

 そんな新星は我々の銀河系で年間5個から10個ほど見つかるのですが、国立天 文台や筆者の出身大学である大阪教育大学・名古屋大学・京都産業大学などの研究 者からなる研究チームが2013年8月にいるか座に現れた新星爆発をハワイにある 『すばる望遠鏡』で観測し、水素・ヘリウムに次いで3番目に軽い元素である”リ チウム (Li)がこの新星で大量に生成されている”ことが突き止められ、Natureで 発表されました。どうしてこの発見が偉大なのかというと、それは天文学の大きな 課題の一つである物質進化モデル(ビックバン直後の宇宙には水素などの軽い元素 しか無かった状態から私達の体を構成する炭素、窒素、カルシウムや鉄などの金属 をはじめとする重い元素が生成される過程)を突き止めるために重要な役を担うか らです。
リチウムといえば、みなさんも携帯の充電池などで聞いたことがあると思いますが、 そのリチウムは、ビッグバン時に作られるとともに、恒星のなかや今回の新星、超 新星、星間空間などさまざまな場所でつくられると考えられていました。その上で、 リチウムの生成はさまざまな天体や現象に関わっているため、 「リチウムがわか れば宇宙がわかる」といっても過言ではないと言われているのです。

 銀河系内のさまざまな星のリチウム量の測定などから、どのようなプロセスでど の程度のリチウムが作られるのか多くの研究者によって日夜研究され、最近では寿 命の長い星(質量が小さい星)が関係する新星爆発が重要なリチウムの起源である と推定されるようになってきました。しかし、リチウムが生成される証拠を観測で 直接確認できた例は、これまでありませんでした。
ですが、今回リチウムを生成・放出している天体が初めて直接的に観測されたこと で、新星爆発が宇宙空間における非常に効率の良いリチウムの工場の1つである可 能性を示しました。そして、この発見をきっかけとして今後さらに多くの新星爆発 が観測されることによって、今まで大きな謎であった宇宙のリチウム進化の姿を明 らかになることが期待されるのです。

 余談ですが、今回のいるか座の新星を発見された方は、板垣公一さんと言われる アマチュアの天文家です。これまでにも幾度となく新星爆発や超新星爆発といった 突発天体(急に明るさが変わる星などを)を発見されています。こうした新発見に は、研究者とアマチュア天文家の日々の努力が合わさってなされていることも、ぜ ひみなさまの頭の片隅においてもらえると幸いです。

参考 すばる望遠鏡
http://www.subarutelescope.org/Pressrelease/2015/02/18/j_index.html


(野口:兵庫県小学校教員 2015年03月)