連載:あなたの知らない宇宙
【第53回 ついに検出、重力波!】
「重力波を直接検出!」2016年02月12日(日本時間)、衝撃的なニュースが全世界を流れました。
筆者は、たまたま乗船していたとき船上ニュースに触れ、興奮のあまり思わず「おぉぉ〜」と唸ってしまったことを記憶しています。
本稿では、重力波の検出の衝撃が少しでも伝わればと思います!
そもそも重力波とは何なのでしょうか?
一言で表現するとすれば「時空の歪みが伝わる波」と言えます。
例えば、お風呂に張ったお湯に水滴が落ちた時に生じる波紋を考えると、水滴によって発生した揺らぎが、水面上の上下振動として、水面を伝わる現象と言えます。
同様に考えると、重力波は、非常に強い重力源によって発生した揺らぎが、時空の歪みとして、時空を伝わる現象と言えます。
重力波の発生源となりうる非常に強い重力源としては、中性子星やブラックホール等の合体が候補として挙げられてきましたが、つい最近まで重力波による時空の歪みの時間変動を捕えることはできていませんでした。
ところが、2015年09月14日(日本時間)、そのとき歴史が動きました。
何と米国の LIGO [注1] と欧州の VIRGO [注2] という2つの重力波望遠鏡で同時に、時空の歪みの時間変動を捕えたのです。
この時間変動のパターンを解析したところ、太陽質量の約30倍という大質量のブラックホール連星系の合体によって生じた重力波であることまで分かってしまいました。
【 LIGO の重力波検出 】
さて、いよいよ重力波の直接検出が物理学・天文学に与えたインパクトについて語り尽くしたいと思います。
重力波の検出という1つの観測結果で、思いつくだけでノーベル賞級の衝撃が、何と4つもあります☆
(1)「4つの力」の1つである重力を伝搬する波動を発見したことの衝撃!
現代物理学において、自然界には「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4種類の力しかないと考えられています。
重力を伝搬する波動である重力波が初めて見つかったことは、現代物理学にとって非常に重要な発見です。
電磁気力を伝搬する波動である電磁波(光)を発見したのに相当するインパクトがあります。
(2)時空の歪みが伝わることを実証したことの衝撃!
アインシュタインの一般相対論は非常に洗練された理論ですが、数学的な美しさから導かれた要素が強く、実証されていない部分が非常に多く残っているという側面もあります。
時空の歪みが伝わる現象である重力波はアインシュタインの予言であり、重力波の検出により、唯一の重力理論である一般相対論が机上の空論から完全に脱却したと言えると思います。
(3)ブラックホール合体の現場を直接検出したことの衝撃!
今まで人類はブラックホールを直接観測する手段を持っていませんでした。
というのもブラックホールは非常に重力が強く、光も抜け出すことができないため、光による直接観測は原理的に不可能であるからです。
重力波の検出により、人類はブラックホールの謎に直接迫る権利を初めて得られたのです。
(4)重力波からブラックホール質量まで決定できたことの衝撃!
観測された重力波の時間変化パターンを一般相対論に基づいたブラックホール連星系の合体の理論モデルと比較することで、ブラックホールの質量まで決定できてしまいました。
恒星の色から質量を求めるように、重力波からブラックホールの物理状態を明らかにするプロセスは天文学そのもので、重力波を用いた天文学が夜明けを迎えたと言っても過言ではないと思います。
1915年の一般相対論の発表から100年後、重力波の直接検出により、人類の宇宙への理解は次のステージに到達したと言えると思われます。
「2015年」は、重力波天文学の幕開けという歴史的な年として、後世にまで語り継がれるでしょう。
[注1] LIGO (Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory):
米国のレーザー干渉型重力波望遠鏡。
一辺が4km のL字型をした巨大なレーザー干渉計。
2台の望遠鏡から構成され、1台はルイジアナ州リヴィングストン、もう1台は3000km以上離れたワシントン州ハンドフォードにある。
レーザーの干渉パターンにより 10^-19 % 以下という僅かな空間の伸縮を検出することができる。
【 LIGO の仕組み 】
[注2] VIRGO:
欧州のレーザー干渉型重力波望遠鏡。
一辺が3kmのL字型をした巨大なレーザー干渉計。
ピサの斜塔で有名なピサ近くのカーシーナにある。
参考文献:
・LIGO Web Page
・VIRGO Web Page
・重力波直接検出について(国立天文台)
(Sumiyoshi: 2016年06月)
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