連載:あなたの知らない宇宙

【第56回 ブレーザー】

みなさん、相対性理論をご存知でしょうか? なんか難しそう、聞いただけで拒否反応が...、という方もいらっしゃるかもしれません。 今回は相対性理論のうち、特殊相対性理論の効果がみられる現象を"簡単に"ご紹介します。

まず、夜に正面から車が走ってくることを考えます。 普通は車が止まっていても走っていてもヘッドライトの明るさは変わりませんね。 ところが車が光の99%の速度で走れたとしたら、ヘッドライトの明るさが変わるのです。 どれほどかというと、10億倍も明るくなります。 これを『相対論的ビーミング効果』と呼びます。 この時のヘッドライトの明るさは昼間の太陽よりもずっと明るいのです。 こんな車が正面から走ってきたら、失明してしまいますね。 普通に走る車のヘッドライトはどうして明るさが変わらないかというと、時速60キロメートルは光速の0.00001%にも満たないため、相対性理論の効果が出ないのです。

日常生活では相対性理論の効果を感じることはありませんが、宇宙に目を向けるとその効果が現れます。 例えば、宇宙には『超巨大ブラックホール』という太陽の100万倍以上もの質量を持つ天体があります。 その一部は周りに明るく輝くガス円盤を持ち、細く絞られた『ジェット』と呼ばれるプラズマを噴出しています。


(credit: NASA/JPL-Caltech)

このジェットは光の99%を超える速さで運動することがあります。 すると、相対論的ビーミング効果が効き、非常に明るく観測されるのです。 ジェットが地球の方向にまっすぐ噴出していて、相対論的ビーミング効果が観測できる天体を『ブレーザー』と呼びます。 ブレーザーはジェットからのエネルギー放射が観測しやすいため、どのように光速に近い速度まで加速されるのか、といった問題を解決するための重要な研究対象となっています。




(Tasaki: 2016年10月)