連載:宇宙×◯◯

【第5回 X音楽家】

 みなさんはハーシェル (ドイツ語ではヘルシェル) という人物をご存知でしょう か?彼は天文学者になった音楽家なのです。
今回は『宇宙×音楽家』をご紹介しましょう。

 ハーシェルは1738年にドイツで生まれ、1753年からはオーボエ奏者として、楽団 に所属します。その後は、イギリスへ渡り、楽団長や指揮者として活動しながら、 作曲活動も本格化させました。なんと、1760年から1764年までの4年間で24曲もの 交響曲を作曲しています。

 このように音楽家として成功していたハーシェルですが、1770年代になると天文 学へ熱心に取り組むようになりました。ハーシェルが天文学に夢中になったきっか けは、「音楽を研究したい」と思ったことでした。音階や和音の仕組みを研究する ために数学を勉強し、数学の本と同じ著者が書いた「光学」の本まで読んだことか ら、望遠鏡を使って星を観察したい、と思うようになったそうです。

 そして、1782年のオルガン演奏を最後に、音楽活動をやめて天文学研究に専念し、 下のようにたくさんの天文学上の業績を挙げています。

・天王星(*1)の発見
・火星の四季(*2)を発見
・星雲(*3)から星団(*4)が生まれるという星の進化論を提唱
・惑星状星雲(*5)の発見
・太陽運動の見積もり
・連星(*6)の発見
・赤外線(*7)の発見

(*1) 太陽に近いものから7番目の惑星
(*2) 地球と同じように自転軸が傾いていることから、四季があることがわかった
(*3) 宇宙空間に漂う塵やガス
(*4) 数百個もの星の集まり
(*5) 太陽と同じかそれよりも軽い星が寿命を終えたあとに残ったガス
(*6) 二つの星がお互いの重力で引き合いながら回転している
(*7) 目には見えない光の一つで、目に見える光よりも波長が長い

 ここからわかるとおり、ハーシェルによって18世紀の天文学が大いに発展しまし た。音楽好きの天文学者としては、ハーシェルの天文学への貢献に感謝しつつ、一 方で彼が作曲を続けていたらどのようなすばらしい曲を残してくれただろうか、と 想像せずにはいられません。


(田崎:国立天文台 2014年09月)