連載:宇宙×◯◯
【第10回 X人間】
私たちが住んでいる宇宙。“住んでいる”と言うと、とても身近に感じますが、
遠く、果てしなく感じるのが宇宙です。宇宙が生まれたのは約 138億年前。太陽は
約50億年前に誕生し、地球の誕生は約46億年前と言われます。地球上の生命は約38
億年前には誕生していたのが確認されていますが、私たち人類の歴史は”たった”
200万年程度しかありません。地球があってこその人類,宇宙があってこその人間と
言えそうですね。さて,今回は”宇宙と人間”について面白いお話を紹介したいと
思います。
私たち人間は身体が主に炭素化合物でできたいわゆる有機体です。
そもそもその身体を作っているものはどこから来たのでしょうか?それはすなわち、
炭素という元素はどのようにして生まれたか?ということです。
この問題に取り組んだのが20世紀にイギリスで活躍した天文学者、フレッド・ホ
イル (Fred Hoyle)です。今では炭素は星の中で合成されていることが知られてい
ます。ホイルは星の中での炭素の合成に関する理論(*1)を考えつきました。しかし、
彼の考えを証明するには、ある特定の条件(*2)が成り立つ必要があったのです。こ
こでホイルは、”あらゆる生物と同様に,人類も炭素を基盤とする有機体であるた
め、炭素が存在しなければ、人類も存在しない。(*3)”という考えから、その条件
が必ず成り立つはずだ,と結論づけます。これが有名な(?)人間原理が初めて適用さ
れた例です。
もちろん、この理論は後に実験によって証明されることになりますが、人間の存
在から宇宙を考えるのはとても面白い考え方ですね。今,私たちはこうして存在す
るから、宇宙はこうだったはずだ。このような考えからスタートする科学もあるか
もしれませんね。
**ホイルの考えや逸話は「僕らは星のかけら」[1] という本で詳しく紹介されてい
ます。原題は”The Magic Furnace”, つまり”魔法の炉”です。
やや難しい内容もありますが、とてもわくわくさせられる1冊です。
== 注釈 ==
*1: トリプル・アルファ反応と呼ばれる反応で,3つのアルファ粒子(ヘリウム4の原
子核)から炭素が生まれる.
*2: 炭素12が特定のエネルギー準位(7.65 MeV)をもつこと.
*3: 「僕らは星のかけら ~原子をつくった魔法の炉を探して~」[1] より引用
== 参考文献 ==
[1] 「僕らは星のかけら ~原子をつくった魔法の炉を探して~」
(原題: The Magic Furnace), マーカス・チャウン (Marcus Chown),糸川洋 訳, 2000, 無名舎
[2] 「宇宙創成(上),(下)」
(原題: Big Bang), サイモン・シン (Simon Singh), 青木 薫 訳, 2009, 新潮文庫
(小倉:愛媛大学 2015年03月)
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